COLUMN元島民コラム

2018/04/02中村陽一「世界文化遺産・端島(通称軍艦島)のあるべき姿とは」

「世界文化遺産・端島(通称軍艦島)のあるべき姿とは」
 中村陽一




昭和49年(1974年)、三菱鉱業㈱高島鉱業所端島坑は、
折からのエネルギー革命で石炭から石油への急速な転換により
採算が悪化して止む無く閉山した海底炭鉱です。
 この島は明治23年(1890年)三菱が操業以来84年間、
日本の産業近代化に貢献してきました。
僅か6ヘクタールの小さな島の海面下1000mでは、坑道を縦横に張り巡らせて、
日本一高カロリー(8000kcl
)の石炭を年間40万トン(最盛期)も産出して
八幡製鉄所や大阪ガスに原料炭として運ばれました。
 此の島の居住区は島の西側にあり、ほぼ3ヘクタールの住居地域に
昭和30年代には5300人の人々が居住して、世界一の人口密度を呈していました。
我が国最初の鉄筋コンクリート造高層アパート30号棟を始め、
次々と絶え間なく高層アパートが建てられていきました。
 此の島では明治から大正・昭和にかけて、島民は数々の創意工夫をしながら、
苦楽を共にした運命共同体でした。

 元島民たちが言う。「此処に住んでいた人々は皆家族同様であった」と。
端島は小さいながらも、島内にはすべての施設が立体的に組み込まれ、
都市機能が備わった海上都市であります。

 

無人島になって、半世紀弱、廃墟となった島は、
いま世界文化遺産として再び甦ろうとしています。
 平成27年7月(2016.10)に世界文化遺産に登録されました。
明治の近代化産業遺産として脚光を浴びている軍艦島を今後、
どのようにして後世に伝えていくべきか。

「島は深い眠りについていたのになんで起こしてしまったのか。見世物ではない」
という一部の元島民の声もあります。
先祖代々此の島と運命を共にした方々には、此の島は祈りの場所でもあります。
十分に理解出来ます。
 一方で、端島と高島は共に世界文化遺産に登録されました。
また国の史跡としても指定されています。
普遍的価値のある島です。

しからば、この輝かしい歴史を後世に伝えていかなければならない。
伝えていくことこそ、かって此の島で日本の近代化の為に汗水流して働いた祖父や
父とその家族に報いることだと思います。

 

現在はどのようになっているでしょうか。

 島の所有権は三菱から高島町を経て現在は長崎市です。
平成21年10月(2009.10)に長崎市は一般観光客の島への上陸を解禁しました。
現在、長崎~端島航路に民間の観光船5社(野母半島~端島航路に1社)が
就航しているが観光客の出足は好調で、満員で乗れない時も度々あると聞きます。
 5社で一日の上陸時間を決めて時間差で1社ずつ観光客を上陸させて、
説明も各社各様で行っています。
 長崎市は各観光船会社に運営を委ねています。観光客の島での滞在時間はざっと小一時間で、
その理由は島への船の接岸は一度に1艘しか出来ない上に島内の見学ルートも僅かしかないためです。
島内には観光に対する施設は皆無であり、トイレ1つない。
 海が時化ると船はたびたび欠航する。世界各国や県外から楽しみにして訪れた観光客には
不満の声が多いと聞きます。
端島は閉山後長い間無人島であったので風化崩壊が進み、危険で島内内部深くは入れない。
 観光客は島に上陸しても日本最初の鉄筋コンクリート造30号棟アパートの
外壁1面を眺めるだけです。これで世界文化遺産を見たといえるでしょうか。
観光船で島の西側にまわり、海上からアパート群を眺めた方がよほどインパクトがあります。
端島の隣の高島も共に世界文化遺産に登録されています。我が国最初の竪坑「北渓井坑」があるし、
グラバー別亭跡、コンニャク煉瓦の道路側溝など歴史的遺構があります。
日本最初の西洋式炭鉱です。観光客のほとんどは高島には行かない。何故でしょうか。
軍艦島の巨大な廃墟のインパクトに圧倒されて、また報道も軍艦島ばかりだからかも知れません。
 はたして世界文化遺産はこれで良いのでしょうか。疑問に思います。そこで提案があります。

 ①しっかりとした「ビジターセンター」を高島に設置してほしいのです。
  設置は長崎市になると思いますが、今ある炭鉱資料館を建て替えて
  ビジターセンターにする案は如何でしょうか。
立て替えるに当たっては、
  出来るだけ有名な建築家にデザインやレイアウトをお願いする。
少々設計料が高くても、
  宣伝費と考える。建築家が良いものを造れば、多くの人々が見学に来るはずです。


お手本は世界文化遺産・韮山反射炉のビジターセンターなどがあります。

中村陽一

運営は民間に任せたら良いと思います。
高島航路の欠航はほとんどありません。昔から海が時化て端島行きの船が欠航しても
高島まではいっていました。
ビジターセンターを整備し、そこで高島・端島の文化遺産の説明を受けて高島を見学した後に
端島へ上陸するのが良いと思います。
海が時化て端島行きの船が欠航しても、高島からなら軍艦島を間近かに見ることが出来る場所も
沢山あります。
端島を今後どのように維持していくのが良いのでしょうか。決して遺棄遺産にしてはなりません。


 島内は高層アパートからのコンクリート片などの落下物などもあり、
くまなく島内を巡る事は危険で許可されていません。今は第1から第3までの
見学広場から眺めるしか方法はありません。
 少なくとも護岸にそって外周を一周し最頂部の神社まで行ける見学路は整備してほしいのです。
 神社まで行けば、島内を360度俯瞰することができます。

中村陽一


平成17年(2005)長崎市は軍艦島保存活用技術検討委員会を設置し
建物総てを補修して維持するのには約140億円と言った莫大な費用が必要だと発表しました。
 政府はユネスコから軍艦島の明確な保全計画の策定を求められています。
長崎市はユネスコに提出する基となる修復・整備活用計画を平成29年(2017)にまとめました。
それによると平成30年度(2018)から30年間を10年ずつの3段階に分け、徐々に整備を進める。
30年計画で108億円が必要になると言う。
 このうち50%を国が、県が20%、市が30%を負担する案です。
 計画によると護岸と生産施設跡を最優先で整備し、林立する高層アパート群は
島の最上部に建つ3号棟(幹部社宅)の維持を優先するとの考えです。
護岸と生産施設跡の整備は当然として、何故3号棟の維持を優先するかが理解できません。
 きっと軍艦島のシルエットが崩れることを心配してのことだろうか。
初めて端島が軍艦島と報じられたのは大正5年であり、当時まだ建物が少なかった時から
端島は軍艦島と呼ばれていました。
3号棟は昭和34年(1959)に建設された最後の鉄筋コンクリート造4階建ての職員社宅です。
それよりも大正初期に建てた日本で最初の鉄筋コンクリート造の30号棟や
日給社宅(16号棟から20号棟の5棟からなる)を優先すべきではないでしょうか。
3号棟とは歴史的技術的価値が全く違うと思うからです。
30号棟の腐食がひどく一部崩壊が始まっていて、手をつけられないとしたら、
日給社宅(16号棟から20号棟)のいずれか1棟でも優先して修復してはいかがですか。
本来は是非30号棟を今の状態で保全してほしい。当然内部には入れないが、
外壁を広島原爆ドームのように保存できないか。
 危険な作業になりますが、十分な安全対策を講じれば出来ないことはありません。
工期10か月、4億円くらいでできると思います。

島の整備は30年計画が終わっても永久に続きます。費用は県や市の問題以上に国の問題でもあります。
どのようにして費用を捻出するかが大きな課題であります。チエを絞り出す必要がありそうです。


軍艦島には沢山の研究題材があふれています。

例えば、
我が国最初の鉄筋コンクリート造高層アパートの出現過程について。

建物の劣化を止める画期的工法の発明

コンクリートに代わる先進的な材料の発明

海洋構造物の補修・維持管理の方策

地震・津波などから建造物や人命を守る画期的な方法

海が深くて港が造れない時の船係留施設と最適な護岸築堤法

海洋建物の風化崩壊のメカニズムを解明して、コンクリート自然崩壊の最後を見届けて、記録に残す。

端島の植生を調査して、潮風や塩分を含んだ土壌に強い植物を選定する。


その他沢山あると思いますが、端島は壮大な実験場であるし屋外博物館でもあるのです。
長崎市は、研究する団体や個人から使用料をとって、開放しては如何でしょうか。

 

 最近、端島から池島を巡るツアーが不定期ではあるが観光船を使って行われています。
大変良いことだと思います。高島を含めて海底炭鉱クルージングコースにしては如何でしょうか。
いまの学生は石炭を見たこともないし、炭坑とはどのようなところか、
どのようにして石炭を掘っていたかなど知らない人がほとんどです。


軍艦島が世界に貢献することを夢みています。
皆様の応援をお願いいたします。
一緒に頑張ろうではありませんか。                         





                                      以上








中村陽一(なかむら よういち)  プロフィール
1938年(昭和13年)北海道札幌に生まれる。
小学校時代の一時期を軍艦島で過ごす。武蔵工業大学(現在の東京都市立大学)建築学科卒業。
長く建物の建設携わった経験を生かし、現在、軍艦島の保存活動をおこなっている。
また、軍艦島デジタルミュージアムの相談役も務めている。

                              


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